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徳島地方裁判所 昭和24年(行)48号 判決

原告 隔山彌太郎

被告 鳴門税務署長

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告は「被告がなした原告の昭和二十三年度の所得金額を金十三万円所得税額を金三万三千九百八十円とする更正決定はこれを取り消し、所得金額を金四万二千六百七十二円所得税額を金四千六百五十三円と変更する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として原告は肩書地に於て精米精麦製粉等を業とするものであるが、原告の昭和二十三年度における右営業による所得は総収入金額十万二千七十一円五十銭でこれを得るために要した必要経費は合計五万九千三百九十九万五十銭差引純所得額金四万二千六百七十二円この所得税額金七千四十三円中より扶養控除額金二千三百九十円を差引くと金四千六百五十三円となるからこれにより所得額金四万二千六百七十二円所得税額金四千六百五十三円とした確定申告書を所定期間内に被告に提出し右所得税はその頃納付済である。ところが被告は昭和二十四年二月二十二日附を以て原告の右申告に対し所得金額を金二十万円所得税額を金六万六千三百五十三円と更正をなし原告は右更正に異議があつたので適法期間内に高松国税局長(当時の高松財務局長)に審査の請求をなしたがその後被告は昭和二十四年八月二日附を以て右所得金額を金十三万円同所得税額を金三万三千九百八十円と訂正し、その頃原告はその通知を受けた。而して原告は、昭和二十三年中毎日正確に記帳した「精米日賀栄」(甲第三号証)なる帳簿による計算に基いて右確定申告を記載提出したものでこのことは原告の営業の性質上、使用した電力量から推算しても窺うことができるものであるにも拘らず、被告は原告の所得を十分に調査もせず漫然見込みを以て原告の所得を越えた不当に過大な前示訂正による課税処分をなしたものであつて、原告は、前述の如く審査の請求をなしたが既に請求をしてから三箇月以上を経過するも未だその裁決がないから右違法な更正決定の取消を求めるため本訴請求に及んだ次第であると述べ、被告の本案前の答弁に対し、原告の審査の請求が被告宛になつていることは認める。然しながら原告の異議申請書が被告の更正決定を不服とする審査請求であることは次の理由によつて明かである。即ち所得税法上審査請求の語を使用しているが、これは更正決定に対する不服の申立を指すものであることは同法第四十九条第一項の規定上明かであり同法上これ以外に不服申立の方法を認めていないし又その形式要件も定めていない。而も同請求書は税務署長を経由して所轄国税局長に提出すべきものであるから仮令字句がどうあろうとも文詞自体より判断して更正決定に対する不服申立なることが明かにされて税務署長に提出されたものである以上審査の請求であること疑なく従て原告の右異議申請書は国税局長に対する審査請求たること明かである。仮に原告の提出した異議申請書が被告主張の如く審査請求でなく単に税務署長に再調査を求めるものであるとするならば原告被告間の意思内容に重大な相違があるにも拘らず一片の注意も与えずにこれを受理して却下もしなかつた被告の措置は原告の審査請求の機会を失わしめ、延いてはその訴権をも失わしめ憲法上保障された裁判を受ける権利を奪つたものと断ずる外はなく、原告は被告のかゝる取扱のもとに審査の請求を受けることができなかつたものであるから本訴請求は行政事件訴訟特例法第二条但書の「その他正当の事由」に該当し、出訴期間についても同法第五条第三項但書により適法である旨附陳し、本案の答弁に対し被告主張事実を否認し被告は原告の支出金額より逆算してその所得を確定しようとするが、支出必ずしも所得の数額と合致するものではない。生計費の如きは各人各様夫々所得に応じてなす場合もあり又他よりの借入金により随時の支出に当てる場合もあり統計上の生活費千五百九十一円を原告が支出しているとしてこれを以て直ちに所得を推定することは不当であり製粉機は購入しておらず罰金の納付は一時訴外田村マキより借りてなしその後訴外宮内よりの貸金の返金を以て弁済したものであり、預金額について被告の主張する原告の増加額は昭和二十二年に原告が不動産及び動産を売却して得た金員訴外鈴江トモよりの返金及びモーターの売却代金の合計額三万円を無視したもので昭和二十三年中の増加額は実質において存しない。又約二十羽程度の養鶏をしていたが卵を売つたことも少く飼料に比して所得があると言う程のものでなく当時これを事業としたものではないと述べた。(立証省略)

被告訴訟代理人は先づ本案前の答弁として「原告の訴を却下する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めその理由として所得税の更正決定を不服として審査の請求をしようとする者は、その事由を記載した審査請求書に証拠書類を添え処分をした税務署を経由してこれを納税地の所轄国税局長に提出しなければならないことになつているところ、原告は昭和二十四年三月七日附の「二十三年度更正決定異議申請書」なる書面を被告に提出したのであるが、その書面を検討すれば明かに国税局長に対する審査の請求とは認められず被告自身に対して再調査を求めるための異議申立があつたものと解すべきであり、かゝる場合被告においては更正決定の内容を再調査しその結果誤謬のあることを発見した際には速かに当初の更正決定額を減額する誤謬訂正を行い異議を解決することゝしている。従つて訴願の手続を経ないでなした原告の本訴請求は不適法として却下されるべきであると述べ本案の答弁として主文同旨の判決を求め、原告の主張事実中、原告が肩書地で精米、精麦、製粉等を業としていること、昭和二十三年度所得申告の際原告がその主張のような計算をして所得額を金四万二千六百七十二円所得税額を金四千六百五十三円とした確定申告書を被告に提出し、その頃右所得税を納付したこと、これに対し被告が昭和二十四年二月二十二日附を以て所得金額を金二十万円所得税額を金六万六千三百五十三円と更正をなしたこと、その後被告が同年八月二日附を以て右所得金額を十三万円同所得税額を三万三千九百八十円と訂正し原告にその旨通知をなしたこと、及び原告が定められた納税額を納付しなかつたため被告が同年八月二十二日原告所有財産の一部の差押をなしたことは孰れもこれを認めるが、その余は全部これを争う。抑々原告の所得税額の認定方法には大別して二つの方法がある。

一は、原告の当該年度分の各取引を一々詳細に調査しこれを集計することによつてその年度分の所得を導き出す直接的認定方法であり他は、納税者の財産の価額もしくは債務の金額の増減収入もしくは支出の状況又は事業の規模等により所得を認定する間接的認定方法である。前者の直接的認定方法は理想とするところであるが納税者の税務行政に対する真摯な協力があつて始めて採用され得べき方法で現段階においては採用され得ないところであり後者の間接的認定方法を採らざるを得ない実情にある。而して原告は、昭和二十三年中に前述のように精米、精麦、製粉を業とする外に養鶏、貸金、穀物等販売の副業をも営んでいたもので、被告は右間接的方法により昭和二十三年度における原告の所得額を次の根拠から認定した。即ち(一)徳島県統計課の調査によれば昭和二十三年中における徳島市の一人当り一ケ月平均支出額は千五百三十円であり、昭和二十四年十一月施行の総理府統計局の特別消費者価格調査報告書によれば昭和二十四年十一月十六日より同年十二月十五日間の一人当り平均支出額調査において徳島市は二千百四十六円鳴門市は二千二百三十六円で徳島市を百とすれば鳴門市は百四パーセントとなる。この比率によると昭和二十三年度における鳴門市一人当り一ケ月平均支出額は千五百九十一円となる。原告は農村に居住しているものの純農家ではなく、且つ又相当上位の家庭であるからむしろ一ケ月一人当り平均支出額を上廻ることゝなるが、右鳴門市一人当り一ケ月平均支出額、千五百九十一円を採ると昭和二十三年中における原告の家族人員は五名であるから同年中の原告方世帯生計費支出額は金九万五千四百六十円であり、(二)昭和二十三年度中において原告は製粉機一台一万二千二百円(附帯費千二百円を含む)ミシン一台一万二千円を買入れ、(三)原告は昭和二十三年七月食糧管理法違反により罰金として二万円を支出し、(四)公租公課として合計一万八千九百九十七円十二銭を支出し、(五)諸掛金として五千六十六円を支出し、(六)家族の預貯金増加額が三万一千五十三円三十五銭増加しており、これらは孰れも原告の当時の所得によつて賄われたと見るべきであり、結局原告は昭和二十三年中において被告決定の所得金額十三万円を遙かに超過する二十万七百六十四円四十七銭の所得を得ているものであり、原告の根拠とする「精米日賀栄」なる帳簿は脱漏のある仮装記帳で措信するに足りないものであるから原告の主張は失当であると述べた。(立証省略)

三、理  由

先づ本訴の適否につき考えるに、更正決定に異議のある者は更正決定の通知を受けた日から一ケ月以内に不服の事由を記載した審査請求書に証拠書類を添え処分をした税務署を経由してこれを納税地の所轄国税局長に提出しなければならないことは所得税法並びに同法施行規則の明定するところであるが、その書式に関しては何等制限をしておらず、又他方昭和二十五年三月三十一日法律第七一号所得税法の一部を改正する法律においては、税務署長の更正決定に対して異議のある者は先づ当該税務署長に再調査の請求をなし、この再調査による決定に不服の際は更に国税局長に審査の請求をなし得ることとして二段階に亘つて更正決定に対する不服を申立てる機会を認めるに至つたが、同法附則第十項によりこの規定の適用のない本件の如き場合においては、更正決定に対する不服申立の機会は唯国税局長に対する審査の請求の一段階のみが認められるに過ぎないのであるから、その不服申立の文言自体より更正決定に対する異議の申立であることを窺うに足れば、これを以て所得税法及び行政事件訴訟特例法に所謂審査の請求があつたものと解するを相当とする。これを本件についてみるに被告が原告の確定申告に対し昭和二十四年二月二十二日附を以て原告の昭和二十三年度所得金額を金二十万円所得税額を金六万六千三百五十三円と更正をなし、右決定がその頃原告に通知されたので原告は同年三月七日附を以て二十三年度更正決定異議申請書と題する被告宛の書面を被告に提出したことは当事者間に争なくその文言宛名において必ずしも適切ではないが右説明の理由によつて右書面は、原告において審査請求の意思を以て提出されたものであることを推認するに足りるからこれをもつて適法な審査の請求があつたものと謂つて差支ない。この点に関する被告の抗弁は採用することができない。而して原告の右審査請求後同年八月二日附を以て被告が更に同所得金額を十三万円同所得税額を三万三千九百八十円と訂正し原告にその旨通知をなしたことは当事者間に争なく、右の如き訂正処分については所得税法第四十六条第四十九条の反面解釈により独立して不服申立の対象となるものではなく先の更正処分(更正決定)と一体をなして当初から訂正された内容の処分があつたと同様に取扱われるべきものと解すべきであるから本件においても当初から訂正された内容が審査請求の内容となつているものと謂うべきである。而して原告の右審査請求後三箇月を経過するも未だ裁決のないことは被告の争わないところであるから原告の本訴は適法のものと謂うべきである。

よつて進んで本案につき審究することとする。原告が肩書地において精米、精麦、製粉業を営んでいたことは当事者間に争がなく、成立に争のない乙第一号証により昭和二十三年中における徳島市の一人当り一箇月平均支出額を算出すると金千五百二十九円十五銭となり、又成立に争のない乙第二号証により昭和二十四年十一月十六日より同年十二月十五日迄の一箇月間一人当り平均支出額を算出すると徳島市は二千百四十五円八十八銭鳴門市は二千二百三十五円八十八銭となり、徳島市の百に対し鳴門市は百四の比率となるからこれにより鳴門市の昭和二十三年中の一人当り一箇月平均支出額を算出すると千五百九十円三十二銭となるところ成立に争のない乙第三号証並びに弁論の全趣旨によると原告方は農村に居住しているが純農家ではなく、且つ又比較的上位の家庭であることが認められ、加うるにその居住地が徳島市鳴門市間に位する地域的関係から推しても原告方当時の生計費支出額は少くとも右徳島市の一箇月一人当りの平均支出額千五百二十九円十五銭を下らないものと解すべく、成立に争のない甲第二十二号証の一(措信しない部分を除く)によると原告方家族は五名であるから昭和二十三年一年間の原告世帯生計費支出額は右徳島市の平均支出額により金九万一千七百四十九円と算定するを相当とする。而して証人田処良雄の証言によれば原告が昭和二十三年中に同証人より代金九千円でミシン一台を買受けたことが認められ、成立に争のない乙第五号証の一によれば原告は昭和二十三年七月食糧管理法違反により略式命令の請求を受けたことを認めることができ原告が罰金二万円の略式命令を受け当時これを納付したことは原告の争わないところである。原告は他よりの借金によつてこれを納付したものであると主張するけれどもこれを認めるに足る証拠はない。又成立に争のない乙第三第六号各証により原告は昭和二十三年中に所得税法第九条第十条第二項、第三項の適用上必要経費と認められない。公租公課として合計一万八千九百九十七円十二銭の支出をしたこと、当裁判所が真正に成立したものと認める甲第九号証の一により原告が同年中諸掛金として五千五十六円の支出をしたことを夫々認めることができる。従つて以上認定のところよりすると原告の昭和二十三年中の支出額は既に十四万四千八百二円十二銭となり敍上支出は孰れも原告の昭和二十三年中の所得によるものであることを推測するに難くなくこれを覆すに足る証拠は存在しないから原告は同年中に同額の所得があつたものと謂わねばならない。そうすると右所得合計を以てすら既に原告の不服とする更正決定の所得額金十三万円を超過すること明かであるから被告のその余の主張について判断する迄もないところである。

原告は正確な帳簿に基いて記載し、その使用電力量より推しても原告の申告の正当であることを窺うに足る旨及び被告主張の如く支出より逆算して所得を決定することは不当である旨主張し甲第三乃至第六号証の各記載によれば原告の主張事実を肯定せられる観はあるけれども当裁判所が成立を是認する甲第十二乃至第十四号証によると原告には他に貸金等による収入もあることを認められるのみならず前段認定の諸事実を参酌して考えると原告に対してはその提出にかかる前記資料のみに基いてはその全所得の実体を把握することは到底望むべくもなく、又その他の原告の挙げた証拠によつては前認定を左右することができないので被告において実額調査に加え、権衡調査による間接的認定方法により原告の所得を決定してもあえて不当とはいえない。よつて原告の右主張は採ることはできない。

以上の次第で被告がなした更正決定の取消を求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却し訴訟費用につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 今谷健一 合田得太郎 尾鼻輝次)

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